4つの作用

●4つの作用

カラダにとって有益な働きをする酵素の中に、NADが無いと全く働けないサーチュイン、PARP、CD38という酵素(NAD依存性酵素)があります。NMNは血中、細胞質、核内といったあらゆるところでNADに変換されることから、NAD依存性酵素が働きやすくなると考えられています。以下にNADが増えることによって期待される4つの作用をご紹介します。

●1つ目の作用(遺伝子発現制御)

サーチュイン(NAD依存性酵素)は、NADを補酵素として遺伝子発現をコントロールする転写因子などのタンパク質を修飾(脱アセチル化)して、その活性のON/OFFを切り替えます。この働きによって健康・老化・寿命に関わる遺伝子発現が調節されています。効果としては、糖代謝改善・インスリン感受性改善・耐糖能改善・血糖改善・脂質代謝改善・コレステロール改善・動脈硬化改善・血管新生・認知機能改善・脳神経保護・アルツハイマー病予防・心保護・腎保護・肝機能保護・骨密度改善・ミトコンドリア機能改善・筋肉増加促進・運動機能向上・ミトコンドリア生合成などが確認されています。

(補足)
DNAの中でアミノ酸の配列情報(作りたいタンパク質の設計図)がコードされている部分を遺伝子と言います。遺伝子情報(設計図)をRNAに写し取り、RNAの配列をアミノ酸配列に変換してタンパク質が生産されます。これを遺伝子発現といいます。ヒトは約23,000個の遺伝子を持ち、転写因子・ホルモン・酵素・免疫・体タンパク質など、必要な時に必要なタンパク質を遺伝子発現させて生命維持しています。
遺伝子発現は、転写因子と呼ばれるタンパク質がDNA上の特定の配列を認識してDNAに結合し、その近傍のプロモーター領域(転写開始部位)上にRNA合成酵素が呼び込まれ、転写開始複合体が形成されることによって開始されます。遺伝子の発現や発現抑制は、転写因子の遺伝子発現、転写因子と転写共役因子と呼ばれるタンパク質の複合体形成、転写因子や転写共役因子の修飾(アセチル化/脱アセチル化など)、ヒストンの修飾(DNA近傍のタンパク質のアセチル化/脱アセチル化)などによって調節されています。
サーチュインが標的とする転写因子などのタンパク質は多数存在するため、発現されるタンパク質は多岐に渡ります。サーチュインは「酵素」ですが、酵素反応の結果として多くの遺伝子発現を制御していることから「サーチュイン遺伝子」とも呼ばれています。サーチュインによって制御される遺伝子発現は、インスリン・アディポネクチン・ミトコンドリア生合成・脂肪細胞・細胞老化・炎症や酸化ストレス・神経保護に関わる遺伝子群など生命をコントロールする重要なものばかりです。

サーチュインの標的タンパク質と遺伝子発現の代表例
標的タンパク質 遺伝的発現など 主な効果
FOXO1(転写因子) インスリン遺伝子の転写因子遺伝子の発現
アディポネクチン遺伝子の発現
解糖系酵素の遺伝子の発現調節
インスリン分泌、アディポネクチン分泌、インスリン感受性
亢進、動脈硬化抑制、抗炎症、心筋肥大抑制、脂肪燃焼、
糖新生/解糖系の調節
PGC‐1α(転写共役因子) ミトコンドリア転写因子Aの遺伝子の発現 ミトコンドリア生合成、脂肪燃焼
PPARγ(転写因子) 褐色脂肪細胞の遺伝子群の発現
白色脂肪細胞の遺伝子群の発現抑制
脂肪貯蔵遺伝子の発現抑制
白色脂肪細胞の褐色化、脂肪燃焼、脂肪細胞分化抑制、
脂肪備蓄抑制、貯蔵脂肪の動員促進
LXR(転写因子) 脂質代謝関連遺伝子群の発現 コレステロール輸送系の亢進
FOXO3(転写因子) アポトーシス調整蛋白質の遺伝子の発現 オートファジー機能改善、ミトコンドリア酸化ストレス軽減、アポトーシス誘導抑制
p53(転写因子) 細胞周期停止遺伝子の発現抑制
アポトーシス誘導遺伝子の発現抑制
細胞老化抑制
アポトーシス抑制
p21(転写因子) p21のユビキチン化・分解促進 細胞老化阻害、アポトーシス阻害、心筋細胞の増殖誘導、
心機能保護、筋衛星細胞の増殖促進(骨格筋再生)
PGC‐1α(転写共役因子) 抗酸化酵素SODの遺伝子の発現 抗酸化ストレス
NF‐ κβ(転写因子) 炎症促進遺伝子の発現抑制 アポトーシスや加齢性疾患に伴う炎症の抑制、
炎症反応を介したインスリン感受性の低下を改善
STAT3(転写因子) アポトーシス誘導遺伝子の発現抑制 アポトーシスや組織炎症の抑制
HIF‐2α(転写因子) 抗活性酸素種遺伝子群の発現 酸化ストレス抵抗性
RAR(転写因子)など ADAM10 遺伝子の発現
ROC1遺伝子の発現抑制
アミロイドβの沈着抑制、アルツハイマー病の改善
HSF1(転写因子) シャペロンHSP70の遺伝子の発現 運動ニューロンの保護、筋委縮性側索硬化症・
アルツハイマー病・パーキンソン病の改善
eNOS(NO合成酵素) NO合成酵素の活性化 NO産生促進、血管弛緩、血管新生、
血管内皮細胞の酸化ストレス抵抗性及び細胞老化抑制
Ku70(DNA修復タンパク) DNA修復タンパクの活性化 DNA2本鎖切断修復、老化遅延、神経細胞保護

●2つ目の作用(DNA修復・テロメア延長)

PARP(NAD依存性酵素)は、NADを補酵素として損傷したDNAやテロメアの近傍のタンパク質を修飾して目印の様なものを付けて、DNA修復酵素やテロメア延長酵素を呼寄せます。これによりDNAの修復やテロメアの延長がなされ、幹細胞や組織細胞の機能維持、細胞老化抑制、癌化抑制などに寄与しています。

(補足)
ヒトの細胞は37兆個と推計されていますが、活性酸素や紫外線などによってDNAは、一つの細胞当たり一日1万程度損傷していると言われています。この損傷の発生に対して修復が追いつかなくなると細胞の機能は低下し、やがて、細胞老化、アポトーシスによる細胞死、あるいは癌化のいずれかに至ることになります。PARP(poly(ADP-ribose)polymerase)は、DNAに生じた一本鎖切断端を認識してDNAに結合してNADを取込み、NADの消費と交換に、近傍のヒストンタンパク質をポリ(ADP-リボシル)化して、DNA修復酵素群をDNA上にリクルートして、DNA修復を誘導します。これにより細胞の生存や機能の維持、ゲノムの安定性に寄与しています。

染色体の末端部分には、損傷を受けやすいテロメアと呼ばれる領域があります。テロメアに特徴的な繰り返し配列のDNAは、複製のたびに短くなるため、細胞分裂のたびにテロメアは短くなります。損傷や複製によってテロメアが一定以上に短くなると細胞分裂が行えない細胞老化と呼ばれる状態となります。テロメアには、シェルタリンと呼ばれるタンパク質複合体が会合していて、その中核のTRF1タンパク質は、テロメアを延長する酵素(テロメラーゼ)のテロメアへのアクセスを妨げています。PARPはNADの消費と交換に、TRF1をポリ(ADP-リボシル)化してTRF1をテロメアから遊離させ、テロメラーゼのテロメアへのアクセスを容易にすることで、テロメアのDNA繰り返し配列を修復、延長させます。これにより損傷、あるいは細胞分裂のたびに短くなるテロメアが再生され、細胞老化が遅延されます。

●3つ目の作用(幹細胞機能・代謝調節)

CD38(NAD依存性酵素)は、NADを使って細胞を活性化する成分を作ります。これにより細胞分裂やターンオーバーが調節され、幹細胞や組織の機能維持に繋がっていると考えられます。また、糖・脂質代謝が調節されています。

(補足)
CD38(Clusters of Differentiation 38)はNADを基質として酵素反応を行い、NADの消費と交換にcADPR(cyclic ADP-ribose)という伝達物質を作ります。この伝達物質が細胞内にカルシウムを動員してリン酸化カスケードを誘導してAMPKを活性化します。AMPKの活性化を介してNAD合成の律速酵素NAMPT(NMN合成酵素)の発現が上昇し、NAD濃度上昇によってmTOR下流のp70S6Kがサーチュインによって脱アセチル化されます。脱アセチル化されたp70S6Kは、mTORによるリン酸化(活性化)が加速され、幹細胞のタンパク質合成、自己複製が誘導され、幹細胞の機能の低下や組織の老化を抑制していると考えられます。また、AMPKの活性化を介してインスリンの分泌、糖・脂質代謝が調節されています。

●4つ目の作用(概日リズム・体内時計)

ストレスや不規則な生活によって乱れがちな概日リズム(概ね一日の体内時計)ですが、もともと体内でNADが多く作られる午前中に合わせて、上手にNADを増やしてあげることでリズムが整いやすくなる可能性が考えられます。

(補足)
ヒトにおけるNAD合成の律速酵素NAMPT(NMN合成酵素)は午前中に多く発現するように時間遺伝子が制御しています。このため日常において体内で生成されるNMNは午前中に多くなり、体内のNADも午前中に多くなることから、NAD濃度に依存してサーチュインの働きも午前中に盛んになっています。この概日変動を示すサーチュインの働きが、転写因子BMAL1などを周期的に脱アセチル化して時間遺伝子の発現を調節することで、概日リズム(概ね一日の体内時計)が保たれています。もともと体内で多くなるタイミングの朝など合わせてNMNの摂取タイミングを整えることで、概日リズムが整いやすくなる可能性が考えられます。朝食後を中心にNMNを摂取した弊社社内モニターも睡眠の質の改善や日中の疲労感の軽減を体感した人が多い結果となりました。

●NADワールド・基礎健康

サーチュイン、PARP、CD38といったNAD依存性酵素は、体内のNADを消費・分解することと交換に体にとって有益なさまざまな酵素産生物を生み出しています。体内のNADが不足するとNAD依存性酵素が働けなくなるため、健康や老化、全身の組織に負の影響をもたらします。皮膚の健康に「基礎化粧品」があるように、カラダがもともと持っている力を整える「基礎健康食品」という考えが必要なのかもしれません。

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